2010年11月04日

『僕の家族』

又しても
作り話です。
毎朝、NHKの連ドラにはまっている私。
かぶりネタでもって、こんなお話にしました。すみません。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

『ナポリタン』が
イタリア生まれではなく
日本生まれだった。


という事実が明らかになって
え~っ?そうだったの?
と驚いた世代がいるそうだ。



僕らの世代は
イタリアンのお店で
『ナポリタン』というメニューを見たこともないから
ふ~ん。
で終わったけど。




でも
こればかりは
驚いた。




僕の母さんは
僕を産んだ母さんじゃないんだと。




えっ?
僕は思わず
飲みかけた牛乳を
噴射しそうになった。



こんな
重大な事実が
たった今、明らかになったというのに
父さんは
「おまえ、今更なにびっくりしてんだ。」

いつもの様に朝刊を読みながら
コーヒーを飲んでいる。




母さんはというと
すました顔で
トーストにバターを塗っている。



僕は、妹と顔を合わせて
互いの目と目で
今、この瞬間は現実なんだ。
ということを確かめた。




「ちょ、ちょっと待ってよ。どういうこと?」


「どういうことって、そういうことだよ。」


「そういうことって、どういうこと?」
妹も繰り返した。


「しつこいなあ。だから、そういうことなんだよ。なあ、母さん。」


「うん、そういうこと。」


何なんだ、この会話。
狂ってる。



僕は
卵焼きとレタスとトーストを
ほとんど一緒に全部口に入れ、
半分残っていた牛乳で
むりやり流し込み
ガタンと席を立った。



「あ、お兄ちゃん、もう行くの?
ちょっと待って・・・。」
妹も慌てて牛乳を飲んだ。



僕はドスドス歩いて
玄関をバタンと出た。
「行ってきますくらい、ちゃんと言いなさい!」
母さんの声が背中に聞こえた。



何なんだ
何なんだ
意味がわからない。
おかしいんじゃないか、
僕の両親は頭が!
ちゃんと、もう一回、病院に言って
血液型調べてこい!
そうだ、
僕も、理科の先生にもう一回しっかり習ってこよう。
昨日は
僕の聞き間違いだったかもしれない。
あ、でも普段、授業態度が悪いから
又怒られるかもしんないな。
あ、そうだ。
野上の奴に聞こう。
あいつなら、しっかりノートとってる筈だ。
うん、そうしよう。



昨日の理科の授業の事が思い出された。
親の血液型の組み合わせによる子どもの血液型の表が
黒板に大きく書かれていた。
両親の血液型は知っていたから
なにげに照らし合わせてみたら
首をかしげる結果だった。
それで
さっき、朝食を食べながら聞いたんだ。



「そういえばさ、昨日理科の授業で
血液型の勉強をしたんだけどさ。
父さんはO型で母さんもO型でしょ。
それからすると、僕がA型っていうのは
おかしいんだよ。
僕の血液型、違うんじゃない?」



「いや、おまえはA型だよ。」


「だから、それだったらおかしいんだよ。
僕がA型だったら、僕は母さんからは生まれてないってことになるぜ(笑)」


「そうだよ、おまえは母さんからは生まれてないよ。」   

そうだよおまえは母さんからはうまれてないよ・・・・。







僕は
足を速めた。
後ろから妹が追いかけてる筈だから。
妹の奴が話しに加わると
うるさくなる。




しかし待てよ。


僕は足を止めた。


おしゃべりなあいつの事だ。
学校に着いたとたん
今朝の話を
大好きな担任の先生に
ひそひそ、べらべら話すかもしれない。
そりゃ
父さん達の悪い冗談だとは思うし
(そうに決まってるけど)
とにかく
妹には口止めしといた方がいいな。




案の上、妹が走ってくるのが見えた。



「お兄ちゃん、早過ぎるよ~。」


妹は息をはあはあさせていた。
せっかく時間をかけてポニーテールにした髪が
ずり落ちている。



妹も今朝の不可解な会話に
眉間にしわを寄せているかと思ったら
ありえない位の笑顔だ。


「お兄ちゃん!さっきの話、すごいね。」
「お兄ちゃん、お母さんの子じゃないって!」


そんな嬉しそうに言うことか?
妹の神経を疑うよ。


「ということは、私とお兄ちゃんは、兄妹じゃないんでしょ!」
「じゃ、お兄ちゃんと結婚できるんだよね!」



はっ?
そっち?



妹はじゃあね!と言って
小学校の方へ向かって言った。
ピンク色のランドセルが
ぴょんぴょん跳ねてった。




全く・・・。
どいつもこいつも
一体、なんなんだ。
あまりにも脳天気な妹の反応に
僕は
口止めするのも忘れてしまった。





その日一日の授業は
まるで頭に入らなかった。
野上はノートを持ってきていなかった。
それもそうだ。
今日は理科の授業がないんだ。
代わりに先生に聞いてきてくれと頼んだが
あっさり断られた。
教科書で自分で調べろ、それくらい。
と鼻先で言われた。
悔しいが、
もっともだ。



普段勉強していないから
僕の自発的な『調べ学習』は
時間がかかった。
そしてわかったことは
両親と僕の今の血液型が事実ならば
選択肢は三つ。


まず一つ目は
父さんの子ではない。
二つ目は
母さんの子ではない。
三つ目は
両方の子ではない。



でも
今朝、僕がなにげに
「母さんから生まれてないって事になる」と言ったとき
「そういうこと」
と言われた・・・・・って事は
僕の母さんは
本当の母さんじゃないって事・・・・?



やっぱり
悪い冗談だ。
いくら僕が、父さんにばっかり似ているからって。




放課後の部活もさっぱりだった。
ぼーっとしていた僕は
顧問の先生に
気合いが入っていない!
と怒られた。
しかたないっす・・・・先生。
僕には出生の秘密があるんです・・・・。
なんて
言えるわけないか。





家に帰ったら普通の我が家だった。



母さんは妹の宿題の面倒をみながら
夕飯の準備をしていた。
僕の帰りに気がつくと
いつものように
風呂に入れと命令した。
洗濯物だしなさいよ。
靴下は黄色のかごよ。
ユニフォームは出した?
学校からの手紙は?


毎度、ようあきもせずに言ってくれるもんだ。


風呂から出たら
お決まりのように
台所から鼻歌が聞こえる。
それに併せて妹も一緒に歌ってる。



はいはい、もうご飯よ。
お兄ちゃん、ご飯とお味噌汁入れてちょうだい。


その言葉を合図に
妹はお箸や、醤油やドレッシングを準備する。



母さんは、おかずを皿に盛る。



夕食の準備が整う頃に
たいてい、ナイスタイミングで
父さんが帰ってくる。
父さんは猫舌だから
父さんが着替えて、テーブルに着くころは
味噌汁もいいくらいの熱さになっている。



「いただきまーす。」



いつもの我が家だ。



夕食時は妹のおしゃべりに始まって
父さんも、母さんも
よくしゃべる。
そして食後は
いつものように
アイスを食べる。




毎日、同じ事が繰り返される。
それは



僕にとって
心地いいことだ。



笑いながら一緒にテレビを見ていて
僕は
今日一日
パニクったり
悶々としたり
悲劇の主人公になったりした事が
なんだか
ばかばかしくなってきた。



僕にとっては
大問題だが
父さんや母さんや妹にとっては
たいした事ではないらしい。


「おい、来週の日曜は試合だろ、今度はレギュラーになれそうか?」
父さんが僕に訊いた。

「う~ん、まだ微妙・・・。」

「どっちにしろ、がんばれよ。」

「うん。」

「あ~、又日焼けするわ~。暑くならなきゃいいけど。」

「お兄ちゃん、ポンポン持って応援していい?私作れるよ!」

「だから~、それはもういいって言ってるだろ。」

「大丈夫よ、今度は母さんも一緒に作ってあげるから。」

「やめてくれよ~。」



畳に横になりながらテレビを見ていた父が
軽い口調で言った。


「そういや、お前、今朝父さんの血液型、O型とか言ってたけど
父さんはA型だよ。」



僕はそれまでお笑い番組に夢中になっていた筈だったが
父さんの言葉には素早く反応した。



「は?」



父さんは僕を見るでもなく
お笑い芸人に合わせて笑っている。


僕は母さんを振り向いて言った。


「何で、朝あんな事言ったんだよ。」


母さんはまだアイスを食べていたが
アイスをなめながら
これまた呑気な顔で言った。


「父さんの冗談に合わせただけよ。」

そう言った後、母さんは急に目が輝き


「ねね、まさか本気にしたとか?」


むっとした僕は
それでも平気を装って

「するわけねえだろ!」

と言うだけは言った。


「ほんと~?結構マジな顔してたけど。」

「だいたい、親の血液型をきちんと覚えていないっていう事が問題なんだよ。
この歳になっても。」
父さんが会話に入ってきた。


「あのさ、今のNHKの連ドラも、実は実の子じゃないっていうドラマなんだけどさ~。
これが、すごくいいの!家族とは?って言うことを考えさせるのよね~。」


はいはい。母さんのなりきり癖が始まりましたよ。
今度は連ドラですか。



「君も、少しは家族について考えたかな?」
母さんはいたずらっぽく笑って
台所へ行った。


会話を聞いていた妹が母さんの後を追いかけて聞いている。


「ねえねえ、じゃ、お兄ちゃんはお母さんから生まれたの?」

「当たり前じゃないの。」

「な~んだ、がっかり。」

「何、言ってんの。」



僕はソファにどかっと深く座った。



まさしく今日は
僕ひとりの狂騒劇だった。



今、この一つ屋根の下には
いつもの我が家の
いつもの風景がある。



僕はふと考えた。



もし、もしも、
今朝の事が実は本当だった。
として
僕らの日常は変わるのだろうか。
もちろん、衝撃とか戸惑いとか、
・・・・何かはあるかもしれないけど



僕の家族はこれまでずっと家族だったし
これからも
きっとそうだ。よな。



NHKの連ドラは見てないけど
きっと、そんなもんなんだろうな。



「お兄ちゃん、ね、あやとりしよう。」
妹が、小さな手に毛糸のわっかを持って僕の側に座った。
いつもは
邪魔くさくて
適当にあしらっている僕だが
今日は、優しい兄ちゃんになろうと思った。


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Posted by なを美 at 10:22 │作り話