2009年09月25日

暇つぶし『光る涙』

かがんで覗きこんだら
ほら、やっぱり、
泣いてら。



なんですぐに
泣くんだよ。


けど
泣かしたくって
泣かすんだけどさ。



「せんせー!こういち君が、ゆいさんを泣かしましたー!」


ちえっ、
おしゃべり女子め
すぐに言いつける。


「また、こういち君?
もう。なんでゆいさんばっかり、いじめるの?」

いじめてないっし。
勝手にあいつが
すぐに泣くんだ。
ちびっこちびちび〜
って言っただけでさ。


なんて言おうもんなら
よけい怒られるから
口に力を入れて
ぼくは黙っていた。



先生に怒られながら
ぼくは 先生の後ろにいる、ゆいを見ていた。


まだ泣いているゆいは
涙を拭きもせず
口をとんがらせて
うつむいている。
傍で愉しそうに慰めている女子が
時折、ティッシュで
涙を拭いてあげている。


なんで
ゆいは、
涙を拭わないのだろ…。





蒸し暑い
ビルのジャングルの谷間のスクランブル交差点。

額から汗が流れて、
目尻にまで流れてきた。その汗を拭いながら
ふと
ゆいの事を思い出していた。



なんで
いきなり、ゆいの事を思い出したんだろう。
何年も前のシーンを
やたら、はっきり覚えているもんだ…。



ゆいは
よく泣いた、
というか
よく泣かせた。



泣いたら
涙を拭わないゆい。


その涙が
光るから


泣かせた。


悪い男だな、俺も。



高学年になったら
ゆいは、ずんずん背も伸びて
それと同時に
おてんばで気の強い女子になっていったから



俺は
もう、
ちびっこちびちびとは
言えなくなった。


ゆいも
もう、泣かなくなった。


最後にゆいの涙を見たのは
中学の卒業式。


おしゃべりな女子連中と愉しそうに泣いていたな。



同じ涙でも
集団で泣いていると
賑やかに見えるもんだ。



卒業式の帰り道、
男友達らと
ワイワイ歩いてたら



角の本屋の前に立ってるゆいを見つけた。
一人でいるゆいを見るのは
久しぶりだった。



男集団に気付いたゆいは別に気にしないもん、
ってな顔してても
かなり意識しているのが見てとれたから
俺は
それに応えてあげようと声をかけた。



「ちびっこ、ちびちび〜何してんだ〜?」


ゆいは
きっと、目をやって
口をとがらせた。



何か言うかと
歩きながら
首が後ろにねじれるまで待ったが
立ち止まることは
さすがにできず
男集団の歩みに戻った。


振り返るのも
さすがにできなかった。


あれが
ゆいに言った
最後の
ちびっこちびちびだった。


スクランブル交差点の
信号が青になって
一斉に
移動する人の波。



あの時
立ち止まってたら
ゆいは
何か言ったかな。




今更何思ってんだ。

自分に可笑しくなりながら
交差点をドヤドヤと歩く。
人の波に合わせて。



立ち止まるなんて
できないよな。



そんなもんさ。







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Posted by なを美 at 23:50 │ひとりごと
∴ この記事へのコメント
いやぁ~いいなぁ。いい!すみません。陳腐な感想しか言えなくて。でも正直な感想です♪ はぁ、懐かしい色だわ(笑)。
Posted by かいぼー at 2009年09月26日 09:36
かいぼーさんへ

すみません(^^ゞ
なんだか、はまりそうです。
『つくりばなし』に。
秋の夜長ですので・・・・。
Posted by なを美なを美 at 2009年09月26日 22:41