Sing Smile Essence

仕事帰りによく見かけるのは
愛犬を連れて
散歩をしている人たち。

どの犬様もみな
毛並みが良くて
おなかもいっぱいで
幸せそう。

考えてみると

最近・・・どころか
ここ１０年以上、

野良犬を見たことがありません。

昔は、結構、よく見かけましたが。


私が小学校５年生の時の話です。


その日は
待ちに待った学芸会。

朝早く飛び起きた私は
いつもより、
かなり早い時間に、家を出た。

胸がドキドキ、ワクワクして
早く学校に着きたくて

私は
タッタ、タッタ
走っていた。

途中、いつもの公民館の前に差し掛かった時

不思議な
不思議な
光景を
見た。


公民館の広場に
野良犬が２０匹、なんと、車座になって座っている。

（うわっ、野良犬が会議してる！）

私はびっくりして
じーっと見ながらも、走っていた。

ひときわ大きな犬もいる。

（あ、きっとあの犬が、ボスなんだ。）

タッタッタの足音に
野良犬たちも、こっちを見ていた。


学校に着いた私は
しかし
ドジをしていた。

今日の学芸会で、リコーダーを吹くのに
その、肝心のリコーダーを忘れてる！

まだ、時間がある、家に取りに行こう！

タッタッタっタッタッタ


響く響く、あせる足音。

さっきの公民館の前にさしかかった。


まだ

いました。
野良犬２０匹。
さっきと同じように、車座になって
無言で（？）
私を見てる。


タッタッタっタッタッタ


家につき、リコーダーを取り
さあ、Uターン。

タタタタタタタタタッタタタタッ

時間が気になって、
私は全速力で走った。
手にはリコーダーをもって。

三度、公民館の前にさしかかった。

まだ

いる。

と思った瞬間、

ウオン！

低くて、大きくて、ライオンのような、吠え声が響いた。


それを合図に

ワンワンワン！キャンキャンキャン！ガオーッ

なんと２０匹の野良犬が、一斉に、小学校５年生の女の子に、襲いかかってきたー！

私は
恐怖のあまり、声も出ず
ブロック塀に追いやられるまま、腰を抜かしていた。
でも、その時、目に入ったのは

広場にただ１匹、毅然として座っている
ひときわ大きな、野良犬。

悠々とこちらを見ている

あれが、やっぱりボスだ。
さっきの、ライオンのような声は
このボスイヌだ・・・・！

子分野良犬たちは
私を囲むようにして
さかんに、吠えたてる。

もうだめだ～。
と思いかけた時

ブッブッブー！

車のクラクションが鳴った。

野良犬たちも、その音にびっくりしたのか
気が済んだのか
身を翻し
広場に走り戻って
ボスを先頭に去って行った。


クラクションを鳴らしてくれた
おじさんに、抱えられ
泣きながら、私は学校に戻った。

よって

あんなに楽しみにしていた学芸会のことは
何ひとつ覚えていない。

でも、
子分野良犬に囲まれながらも
遠くに見た、あのボス野良犬の

くやしいけど、かっこいいシルエットは
今でも目に焼き付いている。


思うに
２度も公民館の前を走って
３度目には
全速力で走ってきた上に、手には、リコーダー。

野良犬には武器に映ったのかもしれない。


でも、２０匹もの犬に囲まれたにも拘わらず
ワンワン吠えられただけで
ひとっつも、噛まれませんでした。

ボスはきっとこう、命令したのでしょう。

「子供だ、脅かすだけでいい。」


野良犬の世界にも
仁義があったようです。